梅田望夫「ウェブ進化論」ちくま新書


ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)


 今、話題になっている『ウェブ進化論−本当の大変化はこれから始まる』を読みました。最初にこの本を書店で見かけたときには、「新しいテクノロジーの発展によって、インターネットの世界が変貌(進化)を遂げていく」といったありきたりの内容だと思っていました。でも、違いました。新しいテクノロジーの発展というよりも、新しいネットワーク社会の現状やこれからの考え方といったものでした。このブログの中にも、その考えに当たるものがふくまれています。


 わたしのブログの左下に、「Ads by Google」という広告があります。これはグーグル・アドセンスGoogle AdSense)というもので、クリック保証(報酬)型(PPC:Pay Per Click)のインターネット広告サービスです。広告の設置は、ブログを書いている個人に任されています。この広告をクリックすると、サイト運営者(ここではブログを運営している「(株)はてな」)に報酬が支払われます。もちろん、グーグルにも広告主から報酬が入ります。例え単価が小さくても、アクセス数が多ければ、大きな利益が上がります。匿名の人々のクリックによって、グーグルには世界中から莫大な資金が流れ込むのでしょう。


 また、左上に「amazon」の広告があります。例えば、ここからアマゾンのWebページにへ移動し、『学力を育てる』岩波新書のページを表示させると、「あわせて買いたい」として『調査報告「学力低下」の実態』岩波ブックレット を紹介していますし、「この本を買った人はこんな本も買っています」と『考えあう技術 』ちくま新書 など5点があげられています。関連した本を紹介することにより、さらに購買意欲を高めるとともに、通常では売れない書物を売るチャンスとなります。


 「ロングテール現象」を知っていますか。シッポが体の3倍ぐらいある恐竜を想像してみてください。販売するものの種類が多い商売では、売り上げの多い恐竜の本体部分で利益を上げ、それで売り上げの少ない、長いシッポにあたる部分の赤字を補填しています。しかし、アマゾンなどでは、在庫の管理が必要ではなく、そのようなシッポの部分でも十分な利益を上げることができます。これを「ロングテール現象」といいます。


 著者の梅田さんは、技術とネット事業構造を、「ネットのこちら側」と「ネットの向こう側」に分けます。これまでのITの寵児であったマイクロソフトが行っていたことは「ネットのこちら側」で、グーグルやアマゾンが行っているのは「ネットの向こう側」であると。これから発展するのは「ネットの向こう側」であると。なぜなら、グーグルが工夫をすることによって、ネットを利用するものすべてがそれを使うことができるからです。基本的には新たにソフトやハードを買い足す必要がないのですから。


 生物の世界では、多様性が重視されます。多様性があるからこそ、一見雑多にみえる生態系も秩序が保たれますし、生物界に何かダメージがあっても、すぐにリカバリーが可能です。健全なネット社会を構成するためには、一つの企業がある特定の部分を支配するようなことがあってはならないと思います。ですらから、情報検索の分野でもグーグルだけではなく、ヤフーやマイクロソフトも健闘してほしいと思います。競争があってこそ、われわれネットを利用するものが使い勝手の良い、ユーザー本意のシステムが構築されるものと思います。


 この本は、これからのネット社会の考え方をわかりやすく示してくれる、大変興味深い刺激的な本だと思います。おすすめします。


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