インターンシップが始まったわけ


 高校生を前に、インターンシップについて話をしました。


◯フリーター、ニート、早期離職者について
 中学生の職場体験や高校生インターンシップがなぜ始まったか知っていますか。まずその話をしていきます。最初は、フリーター、ニート、早期離職についてです。
 皆さんはフリーターという言葉を知っていると思います。主婦の除くアルバイト・パート、あるいは正社員での仕事を希望しない者ですが。フリーターと呼ばれる人たちの年齢が決まっています。15歳から34歳です。フリーターの人数は、厚生労働省では201万人(2005年)、内閣府では417万人(2001年)としており、フリーターの人数は何と10年間で倍増しています。2004〜05年は景気回復に伴ってフリーターはやや減少傾向にあります。
 正社員とフリーターでは生涯年収にどれくらいの差があるか知っていますか。高校を卒業して就職すると2億7千万円、フリーターでは5千万で、約2億円の差があります。また、退職金・年金を入れて考えると、3億円の差があります。


 フリーターよりさらに深刻な存在として「ニート」が注目されています。これはイギリスでつくられた言葉で、「Not in Education, Employment or Training (NEET)」です。1998年にイギリスの義務教育を終えた16〜18歳の若者のうち9%にあたる16万人が就業も就学もしていないことから国民にショックを与え、この言葉が生まれたといいます。10人に一人がニートであったんですね。
 日本では、仕事をしておらず、求職活動もしていない人のうち、これもフリーターと同じで年齢15歳〜34歳、通学・家事もしていない者とされています。日本では、何人に一人でしょうか。日本では厚生労働省が、2003年64万人、2004年、2005年も同じ64万人と発表しています。これは、対象となった15〜34歳人口の2.0%に当たり、50人に一人の割合です。イギリスとは状況は異なっていますね。


 それから早期離職者は、よく「753」と言われます。中学卒業者の7割、高校卒業者の5割、大学卒業者の3割が就職後3年間以内に仕事をやめてしまいます。県では高校卒業者の53.9%が早期離職しています。最近では、964とまで言われるようになっています。


◯キャリア教育とは
 このような状況が、日本の経済成長を妨げたり、社会不安が増したりするのではないかと心配され、皆さんが参加したインターンシップなどの体験的な活動を含む「キャリア教育」に脚光が浴びるようになりました。キャリア教育は、県では、「子どもに社会で自立して生きていく力を身に付けることを目指す教育」としています。例えば、早期離職をしていく人たちの中には、急に、だれに相談することもなくやめてしまう人がいるそうです。これは、やめるときに相談をしたりするコミュニケーション能力(伝えあう力)が身に付いていなかったり、困ったことに直面したときに、それを解決する能力が身に付いていなかったりするところにあります。もし、この人たちにこのような力が身に付いていたら、誰かに相談したり、悩みをなくすように行動して、やめなくてもよかったかもしれません。


 そこでこの状況を何とかしなければならいと言うことでこれまで学校が中心となった「進路指導」から、地域社会も学校と一緒になって取り組むものとして「キャリア教育」が登場したのです。キャリア教育では、生徒の皆さんが日常生活の中で「役割」というものを考える能力や態度や職業について考える能力・態度、つまり、勤労観、職業観を育てていきます。

◯わたしのキャリア
 皆さんにとってキャリアという言葉は聞き慣れない言葉ですよね。
 一言で言えば、「自分が自分の役割・立場といかにかかわるか」ということです。人は生まれたときから、役割・立場をもっています。赤ちゃんはどんな役割・立場でしょうか。物心がつくと、「あいさつや返事をする」、「自分のことは自分でする」など様々なルールを守るように教育されます。小学校では掃除、給食係など様々な係活動、児童会なんてものもありますね。そこで組織の一人として役割を果たしていくことになります。


 さて、わたしは、これまでいろいろな役割・立場を果たしてきました。1960年に生まれました。小学校のころはクラスでは理科係をして、鶏をふ化させたことを覚えています。児童会の活動としては飼育係に立候補して、ニワトリの世話や学校の大きな池を掃除したことを覚えています。また、高校では陸上競技部に入りキャプテンになりました。大学へ進んだわけですが、小学校のころから獣医になりたいという夢をもっていたので、農学部の獣医学科を目指しましたが、1年浪人した後の共通一次試験で思ったように点数がとれず、子どもが好きだったこともあって、小学校の教員になることに決め、教育大学へ進みました。しかし、実際、就職するときには、高校の理科の教員として就職をしました。それは、中学校から大学まで陸上競技をしていたので、陸上競技を教えるのであるならば、高校生がおもしろいと思ったからでした。それと理科、とくに生物が好きだったこともあります。


 というわけで、高校の理科の教員として主に生徒に「生物」教えるという仕事を始めました。そして、結婚し、子どもが二人生まれて、父親という役割・立場ができました。このように、わたしは生まれてからこれまで、家庭で、学校で、仕事で本当に数え切れないほどの役割や立場を経験してきました。それは自分が望んだ役割・立場もありましたが、結果としての役割・立場や思いがけない役割・立場でもありました。また、これからも死ぬまでいろいろな役割・立場に出会うでしょう。


 皆さんはどうでしょうか。16,7歳かと思いますが、これまでどんな役割・立場についてきましたか。これからどんな役割・立場につくのでしょうか。その時に、自分の役割・立場というものに自分がどのようにかかわっていくかという能力や態度が育っていないと「みなさんが理想とする生き方」ができません。そこで、キャリア教育というものが社会から要請されるようになったのです。

インターンシップの利点
 さて、わたしの話のタイトルが「インターンシップのすすめ」ということで、話をインターンシップのメリットつまり、インターンシップを行うことでのよいところについて4点話をしたいと思います。


 まず一つめですが、学習意欲が高まります。わたしが中学生や高校生の時にも職場体験やインターンシップがあったらよかったな、と思います。例えば、さきほどわたしは獣医になりたかったと言いましたが、実際子どものころ大きな動物にふれた経験もなく、皆さんにとっては生まれる前の昔の話になりますが、小学生の頃に「野生の王国」という番組をみて、獣医になりたいと思ったわけです。例えば、インターンシップで獣医さんのところへ行っていたとしたらどうだったでしょう。その後のわたしの勉強に、もっともっと熱が入ったのではないかと思います。こういう行動をひきおこすものをモチベーションといいます。皆さんも、このインターンシップを通して、こんな職業に就き、こんな仕事をしてみたいと夢を描いたと思います。その夢を実現するためにはどうしたらよいか。夢と関連する学習でも好きなものと嫌いなものがあると思いますが、好きなものはますます興味をもって学習できるのではないでしょうか。また、嫌いなものも夢を実現させるためのものならばと思えば、頑張ることができるのではないでしょうか。


 二つめですが、自分のにあった仕事について考えることができることです。今年は○○県の高校生約900名がインターンシップに取り組んでいます。この取組も年々増加しています。それは、各高等学校がキャリア教育の充実を図っていただいているのとともに、企業の皆様が社会貢献や早期離職を減らす取組としてインターンシップを位置付けてくださっていることにあります。就職してから、「こういう仕事には向いていない」「こんなはずではなかった」というような、このようなことを「雇用のミスマッチ」と言いますが、ミスマッチをなくすための就業体験(実際の仕事を責任をもって体験する)なのです。このインターンシップを通して、自分にあった仕事について考えを深めていただきたいと思います。


 三つ目は、日常生活の中で「役割」というものを考える能力や態度や職業について考える能力・態度である勤労観、職業観を身に付けることができることです。よく、「アルバイトをしているからインターンシップをしているのも同じです」という意見を聞きます。アルバイトは、その企業の従業員として働き、その働きに対して報酬を支払います。一方、インターンシップは、企業は生徒に対してアルバイトと同じ扱いではなく、その業界の人材を育てるという視点から生徒を指導してくださいます。また、インターンシップに参加する生徒諸君も、仕事を単に「こなす」ということではなく、「仕事そのものを学ぶ、仕事から学ぶ」が必要ではないでしょうか。つまり、このインターンシップで学んだ知識や技能は何でしたか。また、インターシップでやった仕事は、どのような人に役立ち、仕事に就いている方たちは、自分たちの仕事にどのような誇りをもち、何を考え仕事をされているのか、組織として協力して仕事をして様子、それらを目の当たりにした皆さんは、自分を振り返って、自分の生き方について考えを広げてほしいものです。


 四つ目は、学校の学習にインターシップの経験を生かして欲しいことです。みなさんはいずれも専門高校で、それぞれの専門にかかわる知識・技能を学校で学習しています。それぞれのインターシップでは、学校で学習したことを実際の仕事として取り組んだ方もいると思います。このようなことを通して、学校で学習した力が「生きて働く力」になっていくのです。
 まだまだインターシップのメリットはあると思います。それは、インターシップに参加された皆さんがよくしているかも知れません。わたしのことを結構話をしましたが、皆さんは、これからどのような「立場・役割」に出会うのでしょうか。その時に、このインターシップへの参加が役立つことと思います。常に夢や希望もち、その夢が破れても次の夢をもち、その実現に一歩一歩踏み出してくだせる人になってください。


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