遺伝教育の在り方

高等学校学習指導要領解説 理科編



 昨日、日本遺伝学会「遺伝学の教育と普及に関する特別委員会」主催の「高校における遺伝教育の在り方に関する懇談会」に出席してきました。主催者側からの出席者は、石和貞男(お茶の水大学名誉教授:遺伝学会会長)、武部啓(京都大学名誉教授:委員長)、池内達郎(東京医科歯科大:副委員長)、向井康比己(大阪教育大学:委員)でした(敬称略)。高校側は関西の生物を専門とした9名先生方でした。懇談会は近畿大学のゲストハウスで行われました。


 懇談会の趣旨は次の通り。 

 21世紀はバイオサイエンスの時代とも云われ、昨今は、ヒトゲノム、DNA診断、遺伝子組換え作物などの言葉が、健康や食生活の問題として日常的に登場するようになった。しかし市民一般の遺伝学リテラシーは十分とは云えず、それが不安や誤解に繋がるとともに、「遺伝」という言葉がマイナスイメージで捉えられる場合も少なくない。そして、こうした現実的な社会のニーズに学校教育がきちんと対応できていない、という現状がある。そこで、日本遺伝学会として、高校生物の現状について知りたい。


 遺伝学会側は、今回の改訂で、生物Ⅰに「ヒトの遺伝」や「変異」が取り上げられなかったこと、理科の選択によっては、DNAを知らない生徒が社会に出ることに疑問を呈されていました。


 高校側からは、次のような意見がありました。

  • 生物Ⅰは、DNA、バイオテクノロジーなどが排除され、学ぶ意義が分からない。生徒はDANを学びたがっている。
  • 生物Ⅰは、物理化学的な内容を排除し、科学的思考という楽しさをもちながら自然や生命の本質に迫れない。
  • 生物Ⅰは、ヒトの生物学、医学的内容が排除され、自分が何なのか分からないし、「生と死」が実感できない。
  • 日本の生物教育は遅れている。メンデル遺伝を過大評価している。DNAや遺伝子、セントラルドグマを教えることなくメンデル遺伝を教えることは、生徒にとって分かりにくい。メンデル遺伝はコラム程度で構わない。
  • センター入試の遺伝の問題について、学会として評価をすべきだ。遺伝の問題はパズルとなっている。
  • 遺伝リテラシーと単にいうだけではなく、そのリテラシーを明確にする必要がある。学習内容とその学習状況の達成度の基準をつくる必要がある。
  • 生命科学」という授業をしている。
  • 遺伝病を扱うとき、単なる投げ込み教材ではなく、遺伝病の背景にあるものを押さえる必要がある。生命倫理について、生徒自らに考えさせる場面が必要だ。文部科学省は、思想的なこともあり生命倫理を取り上げたくないようだ。
  • 学会として、早急に文部科学省へ今後の学習指導要領の改訂にかかわって提言をして欲しい。生物にかかわる要望は少ないと聞いている。
  • 学習指導要領の改訂に当たっては、世論を味方につけることが大切だ。遺伝学会として世論形成をして欲しい。
  • 東京都生物教育研究会が中央教育審議会長へ必修「新生物Ⅰ」(2単位)の案を出している。


 懇談会は午後1時から5時まで、この手の会合にありがちな、盛り上がりかけてタイムアップという感じでした。しかし、このように専門家と現場が交流をすることによって、up-to-dateな教育内容を創造できるような気がしました。
 懇談会終了後、近畿大学近くの居酒屋で二次会をやりました。ここでは、生物教育にかかわるいろいろな裏話を聞くことができました (^_^) 。


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