子どもの自律性を支えるには 

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ


 この本の主たる執筆者は、内発的動機づけ*1の研究の第一人者であるアメリカのデシ(Deci, E.L.)です。デシは、「外的報酬は、内発的動機を低下させる」*2という事実を明らかにした心理学者です。


 内発的動機づけは自律的でありたい(自己決定したい)、有能でありたい、周囲の人と暖かい人間関係をもちたい、といった気持ちに支えられています。
 自律的(自己と一致した行動をする)であることと対立した概念は統制されることで、圧力をかけられての行動がこれにあたります。

 
 デシは統制された行動は良くないといいます。それでは、学校はどうなるのでしょうか。様々な目標があり、いろいろな制限があります。目標を達成させ、規則を守らせるには、子どもを様々な手段で統制する必要があるのではないでしょうか。デシは、次のように考えています。

 制限を決めることは、子どもの責任感を育てる上でも非常に重要である。問題はそのやり方なのである。子どもの視点で考え、子どもの立場に立って、プレッシャーを与えるのではなく、子どもの自発性やチャレンジしようという気持ち、責任をもとうとする姿勢を積極的に励まし、子どもの自律性を支えることが重要なのである。
 統制しないで励ますというスタンスは一見容易なことに思えるが、実は難しく、より多くの努力や技術が要求される。

 子どもの自律性を支える具体的な方法は、次のようなことになるでしょう。

  1. 目標を決める過程に子どもをかかわらせる。
  2. 目標を達成できなかったことを、子どもの行動とすぐに結びつけずに、それを解決すべき問題とする。
  3. 学習の中で、子どもが学習にかかわった選択を行う場面をつくる。
  4. 指示をするときに、脅かしたり、強要したりなど圧力をかけない。
  5. 比較してほめたり、評価をしない。
  6. 外的な報酬を与えない。
  7. 競争させない。

 

 この本は、心理学実験の話や日常での出来事を織りまぜて書かれおり、比較的読みやすいものになっています。普通の本ですが、後ろに索引があり、一度読んだ後も、活用しやすくなっています。子どもの自律的な学習意欲を高めたい方には、おすすめです。

*1:自ら学ぶ・やる意欲。外から圧力をかけられることなく、自らの偽りのない気持ちにもとづいて学んだり仕事をしようとする意欲。

*2:外的報酬が自律性を阻害する。例えば、いったん報酬を使いだしたら後戻りできないとか、報酬を得るために手っ取り早い最短のやり方を選んだりする。