注意の分割 −電車脱線事故から−

 
 わたしの気のせいでしょうか、今日の朝の駅は、いつもよりピーンと張りつめていました。また、運転士さんの顔もやや緊張しているように見えました。


 JR西日本福知山線脱線事故で、午後1時現在、死者は計73人、負傷者は441人になりました。快速電車の運転士は、なぜ、制限時速を30㎞以上も上回るスピードでカーブへ突入したのでしょうか。


 「注意の分割」という言葉を聞いたことがありますか。小学生の娘は、テレビを見ながら時間割を合わせられませんし、テレビを見ながらご飯が食べられません。テレビを見だすと、テレビにくぎ付けで、ほかのことがまったくできなくなってしまいます。しかし、大人はテレビを見ながらでも様々なことができますよね。つまり、人は、一度に注意を向けて情報を処理する量(リソース)が決まっていて、大人はそのリソースが多いのですが、子どもはそのリソースが少ないので、一時に複数のことに注意を向けて処理することができないのです。このような問題を「注意の分割」といいます。この「注意の分割」は個人によってその能力が異なります。


 さて、事故を起こした運転士の「注意の分割」は、どうだったのでしょうか。

(状況) 
・一つ前の伊丹駅で40mオーバーランをした。
・電車をバックさせた。
伊丹駅を1分半遅れで出発した。
・車掌に、オーバーランした距離を実際よりも短く報告して欲しいと要請した。
・遅れを取りもどすために、スピードを上げた。

(これまでの出来事) 
・昨年6月にも、快速を運転中に駅を約100mオーバーランして、訓告処分。
・JR尼崎駅発着の全列車について、1秒単位で遅延状況の調査が実施された。


 運転士は、オーバーランをした伊丹駅に止まるときにも、何かほかのことを考えていたのではないでしょか。そして、電車をバックさせたり、スピードを上げたりと、余分な操作を余儀なくされました。また、オーバーランしたことによって、運転をしながら車掌に余分お願いをしました。それに当たって、心理的な負担もあったでしょう。以前も同様なことをしたので、上司に叱責されるのではないかと思ったでしょう。また、遅延を少しでも取り戻さなければならない、という焦りもでました。


 運転士は、行く手にカーブがあることは知っていました。しかし、実際にはカーブに近づくまで、カーブに気がつけなかったのでは。つまり、4、5分という短い間に、一度に様々なことに対応したり、考えたりと「注意の分割」が十分できない状態ではなかったのでしょうか。


 「注意の分割」は、個人によって能力が異なります。私たちは、自らの特性を踏まえて、行動しなければなりません。


 最後になりましたが、亡くなられた方々のご冥福と、けがをされた方々の早い回復をお祈りいたします。